アベノミクスとタンモリの焼結

岳石電気株式会社
代表取締役社長 嶽石 康昭

 

*タンモリの照明部品動向

切削工具・電気部品・・・・タンモリ材料には様々な用途がありますが、コイルや電極といった照明部品は当工業会にとって、とりわけ重要な製品市場であると思います。しかしLEDの登場によりタンモリ材料の需要は急激に落ち込んでいます。特に2011年の東日本大震災から省エネが強く叫ばれるようになり、民主党・細野元環境大臣の小売店への白熱電球取り扱い自粛要請で量販店から白熱電球が消えてから急激に減少の一途を辿っています。

*トップランナー制度とは

先日、安倍首相がCOP21出席の際に、蛍光灯と白熱電球を規制する旨の発言をされ、朝日新聞が大々的に報道しました。実際は、省エネを推進する上で、効率の高い製品に誘導するトップランナー制度をこれから議論していく状況。首相の発言も朝日新聞の発表も誤報に近い、先走しすぎている内容と言えます。
トップランナー制度とは、経産省管轄の省エネ庁が主体となり、省エネ効率上位品(トップランナー)の数値を基準とし、それ未満の製品製造を規制していく主旨の制度です。現在、この規制の適用範囲をどう設定するか、という議論が、省エネ庁や照明工業会などの間で議論されています。細かい内容は議論の最中なので申し上げられませんが、全体的な方向性から言えば、全てのランプをLED効率基準で縛るという内容です。よって実質的に、既存光源のほとんどは規制され、製造禁止になる可能性があります。

*変え難いものとは

ただ、LEDに「変え難いもの」は規制対象から外す調整が行われています。変え難いとは、技術的にLEDでは実現できないもの、と言う意味です。
たとえばUV−C波長は実質LEDでは効率的に出力できないので、このような紫外線ランプは規制対象外になろうとおもいます。逆に、白熱灯の、あのタングステンフィラメントがやんわりと光る雰囲気が好きだ。と言っても、残念ながら聞き入れてもらそうにありません。「LEDで我慢しろ。」ということになりそうです。本来、「変え難いもの」というのは国に決められることではないと思うのです。何年も履きなれた靴を履いている人にとっては、たとえ新品の綺麗なものが売っていようと変え難いでしょう。いくら美人で料理がうまく気立てが良い女性が近くにいたとしても、私にとって私の妻には変え難い?のです。そういうことにしておきましょう。。。
それを、単に「効率性」の要素だけをとって「代替可能であるから規制する」というのはいかがなものか。それならば、自家用車は全て軽自動車で十分だし、衣類はどこかの国のように国民服で統一した方がよい事になります。

*国側の狙いは?

JLMA自主統計から、日本の照明市場は出荷金額ベースで2014年度、約6700億円。そのうち白熱など既存光源は約1900億円。全体の1/3未満です。バブル期1991年度が約6600億円。当時は全て既存光源でしたから実に約4700億円のタングステン照明がこの世から消えたことになります。安倍首相は一億層活躍社会を標榜されていますが、どうやら2/3以上の人々は活躍できないようです。またLEDは国内販売数が国内製造数の10倍程。つまりほぼ海外で生産されています。LEDランプには電子部品やヒートシンクが付属していますが、製造時CO2排出などを含めた総合的な省エネ効果についてはほとんど語られません。もはや全盛期の1/3未満になったタングステン照明を壊滅させ国内雇用を減らし、海外工場で作られているLEDを推奨することが、地球全体のCO2削減に寄与するかどうかも日本の景気を良くするのかどうかも、一億総活躍社会から取り残された無能な私には良く分かりません。

*黒田バズーカとタングステン焼結

アベノミクスから3年が経過。目標の2%の物価上昇は未だ達成できず、先日ついに、マイナス金利政策が黒田日銀総裁から発表されました。しかし、市場は不安定に反応。思惑通りとはいえない状況のようです。現在は、先進国を中心に世界的な不況に有り、日本は20年以上不景気にあえいでいます。それが、アベノミクス・黒田バズーカだけで、短期間に解消するものでしょうか?
世の中はデジタル・ネット社会になり、経済指標も瞬時に速報値がでます。また、それに対する市民の反応も直ぐにネット反映されます。その為か世の中は、即効性のある指標にしか興味を示さなくなったようです。しかし、筋力をつけるにもダイエットをするにも、即効薬には危険な薬しかありません。タンモリの焼結もレンジでチン!の様にやったら、ボロボロの塊になるだけです。

*最後に

モノづくりは一日にして成らず。タンモリ焼結だって粉選定、ガス内容、温度設定、スケジュール・・・様々なノウハウを長年かけて築いてきたはすです。情報がデジタル化されても人間はデジタル化できません。人間の豊さとは何か、長期的視野で考えるべきだと思います。短期的・利己利益重視の世の中を一旦見直す必要が我々にはあるのではないでしょうか?

今評価される自分の為でなく、自分がいなくなってからの未来のビジョンを描くこと。怪しい焼結促進剤など使わずに、地道に未来の為になる事を考える事が必要なのではないか。

熱湯3分のカップラーメンも美味しいですが、お袋がじっくり煮込んだ料理の方が、心と体両方に美味いはずです。


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