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巻頭言
   「WBC と桜満開とパンデミック終息の3月」 (第131会報)
日本タングステン株式会社
取締役社長 後藤 信志

 私がこの会報の原稿を書く時にはサッカーワールドカップ、ラグビーワールドカップ等なぜかよく大きなスポーツイベントが開催されているような気がしますが、昨日WBC 準々決勝で日本が勝利しアメリカへと旅立って行きました。
 WBC も最初のころは各国のレベル差が大きく、大会の意義を疑問視する声も聞かれていましたが、回を重ねるたびに参加国も増え、さらに各国の力の入れようも変わってきたようです。アメリカもMLBとの契約、開幕調整の関係で、トップクラスの選手が勢ぞろいする大会ではありませんでしたが、今回は明らかにMLBのトッププレーヤーの参加数が増加しています。南米のチームもほぼ全員が大リーガーというレベルの高さです。日本は第1回、第2回以来優勝から遠ざかっていますが、日本がこのところ鬼門となっている準決勝を勝ち上がればいいのですが。(ここまで書いたところで中断している間に、3 月2 2日決勝の日を迎えました。)

 「勝ち上がればいいのですが」と書いたように、「南米、アメリカに勝つのは厳しそうだ」と内心思っていた私ですが、21日のメキシコ戦の逆転サヨナラで決勝進出が決まった瞬間から久しぶりに野球に熱くなる気持ちが沸き上がってきました。この日は特番やニュースで夜遅くまで、大谷選手の二塁打と村上選手の逆転サヨナラ打の映像が何十回も流されており、決勝への期待が大きく膨らんでいました。ところがネガティブ思考の私は、佐々木選手、山本選手という投手の主力を使い果たした日本がアメリカの強力打線にめった打ちにあう光景が頭に浮かんでいました。しかし、迎えた決勝はご存じの通り、私のネガティブな妄想を吹っ飛ばす、素晴らしい結末でした。日本の主砲村上選手と岡本選手のホームランで点を取り、小刻みな投手リレーで抑え、最後は大谷選手の高速スライダーで締めるという絵に描いたような夢のような展開は誰もが予想できなかったと思います。

 今回、主力選手の活躍はもちろんのことですが、特に若手投手陣の活躍は本当に見事なものでした。決勝の投手陣も先発の今永選手は29歳ですが、続く戸郷選手22歳、高橋宏選手20歳、伊藤選手25歳、大勢選手23歳と20代前半の若手リレーです(準決勝の佐々木選手も21歳、山本選手も24歳です)。私がその歳の頃のことを思うと彼らの大舞台で物怖じもせず、自分の最高の力を出し切る能力には本当に感服するばかりですし、若い力を信じ、任せきる采配にも頭が下がります。野球だけではなく私たちも見習わなければならないと思いました。

 また、今回私は決勝の時間を病院の待合室で迎えました。総合受付待合室では大きなTV に試合開始直前の映像が映し出されていましたが、なんと、案内された長時間待たされる検査検診の待合室にはTV がありません。しかたがないので決勝の試合をスマホで見ることになりました。ふと気が付くとまわりにも同じようにスマホで観戦している人がけっこういます。沈黙の待合室にハラハラドキドキ同じ気持ちが充満していることがよくわかります。もちろん皆さん礼儀正しく音声はミュートですのでほぼ無表情でしたが、2回の裏村上選手の同点ホームランが飛び出した時には思わず皆さん顔を上げ、ニコリとした顔を見合わせました。見ず知らずの人たちと静かな待合室で喜びを共有するという初めての体験を味わい、スポーツの力を改めて思い知ることになったWBCでもありました。 

 WBC であっというまに三月も過ぎていきましたが、決勝当日3月22日に福岡市に桜の満開宣言が出されました。もう最近は3月満開も驚かなくなりましたが、明らかに桜の開花は早くなっています。私が小学生のころは入学式、新学年の始業式の日には校内の開花した桜の木の下で記念写真を撮っていました。気象庁のデータでは1960年から1990年の30年で福岡市の平均開花日は6日早まっているそうです。そう言えば私が中学生の頃に聴いた井上陽水のアルバム「氷の世界」(日本初のミリオンアルバムです。)の収録曲「桜三月散歩道」の歌詞に「狂った桜が散るのは三月」というフレーズがあります。当時はいかに3月の満開など考えられないようなことであったかがわかります。

 3月最後の日曜日、あいにくの曇天でしたが近くの神社に花見に行きました。桜はまだほぼ満開で、久しぶりにゆっくり桜を楽しみました。けっこうたくさんの人が来ていましたが、ほとんどの人がマスクをはずしていることにふと気づきました。そういう私自身もマスクをつけていませんでした。久しぶりに見る光景にあらためて以前の普通の世界に戻っていることを実感しました。

 この3月はWBC の日本チームの活躍と満開の桜、コロナウイルスパンデミックの終息により、多くの人がとても元気になった月でした。この幸先の良い区切りの春に、この勢いにのって、私たちタングステンモリブデン工業会も仕切り直して新たなステップを踏み出していきましょう。
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