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巻頭言
  「大阪の蒸し暑い夏 [当社の熱中症対策あれこれ] 」 (第132会報)
日本新金属株式会社
取締役社長 岡田 義一

 2020 年初頭より悩まされてきた新型コロナウイルス感染症も漸く落ち着く兆しが見え始め5 月8 日以降は感染症2 類相当から5 類への引下げもあり日常生活を徐々に取り戻す今日この頃です。折しも例年同様の蒸し暑い夏が始まろうとしていた矢先でしたのでマスク着用緩和は皆さんにとってもうれしい朗報でなかったでしょうか。

 しかし毎年この時期になりますと工場運営者としては特に真夏日も多い高温多湿の大阪では熱中症が大変心配されます。事実過去には就業中に体調が悪くなり症状が重いと判断した場合には病院での手当てを受けさせることもありました。今回の執筆では当社の熱中症に関する予防と熱中症リスク(予備軍)の事前把握の取り組みを紹介したいと思います。

1. 熱中症予防の取り組み
 ①暑熱順化の呼びかけ;熱中症が心配される時期の到来となるので具体的な暑熱順化に取り組むよう4 月末より管理職会議や安全衛生委員会等を通して従業員へ呼びかけます。

 ②熱中症の安全診断;TPM の自主保全活動で行うStep 診断を安全活動に応用しています。熱中症に関する必要な知識(予防、症状、処置方法など)の有無を職場ごとに従業員同士で評価し、一人でも不十分だと判断したら勉強会などを行い再度評価します。合格点であれば管理職によるTop 診断を行うという活動です。
 必要な知識の習得は勿論ですが従業員同士または従業員と管理職とのコミュニケーションを促す利点もあります。熱中症以外にも安全に関するテーマを選定し毎年3回実施しています。

 ③体調管理チェック;やはり最も大切な予防の一つに個々人の体調管理があります。毎日始業前の体調をチェックシートの項目に従い確認し記録を取ります。

 ④注意喚起の情報発信
 ・熱中症講話;毎年5 月末頃に製薬会社や飲料水メーカーの専門家による講話を実施、全従業員が聴講し熱中症の理解を深めます。
 ・WBGT(暑さ指数)予報の配信;環境省熱中症予防情報サイトから毎日発信されるWBGT 予報を社内数か所のデジタルサイネージや現場監督者へメールなどで配信します。情報は一定時間ごとに更新されるWBGT 予測値と危険度に関するランク付けが示されており特に注意しなければならない危険時間帯については社内放送でも注意を呼び掛けます。
 ・熱中症コラム配信;安全環境管理室より熱中症に関する誰でも見てわかる簡単なコラムを社内ネット掲示板へ毎週配信し、やはり注意喚起を促します。

 ⑤予防等の必要物資配布
 ・熱中症予防飲料水;何と言っても作業中のこまめな水分補給が大切です。
 ・クールリング;首回り(頸動脈)を冷やすための保冷剤ですが特に暑熱職場の作業では有効です。
 ・経口補水液、塩飴;熱中症の初期症状に備えた塩分補給として準備しますが塩分濃度が高いので通常の予防飲料水としては適切でありません。

2.熱中症リスク(予備軍)の事前把握の取り組み
 以上、様々な予防策を実施しており発症者は随分減少しましたが罹災者ゼロにまでは至らなかったため熱中症になる前の初期症状を把握できる手段がないかと検討した結果、バイタル情報活用の可能性を知り検討しました。いくつかの方法があるようですが当社では「熱中症対策ウォッチ」を導入しました。熱中症は体表面の皮膚温の上昇ではなく深部体温の上昇により発症するとのことです。熱中症対策ウォッチはこの深部体温の上昇(熱ごもり)を検知しアラームを出すウェアラブルデバイスです。

 当社では2021 年から発症が心配される職場の全従業員へ装着してもらい評価を行ってきました。装着期間は6 月から9 月までの4か月間で200 名弱の従業員に装着してもらいました。この間のアラーム発報回数は40 ~ 50 回/ 年で発報時には本人の自覚症状がない場合が多いようですが冷房の効いた部屋で水分補給をしながら10分程度休ませることで発報が停止しその後は作業に復帰しています。 この2 年間は正しく装着されなかったケースを除き熱中症発症者ゼロの結果となりました。

 また、このアラーム発報時の作業状況やWBGT 値、本人の当日の体調などを記録しておくことで以下のような重要な知見も得ることができました。
 ・深部体温アルゴリズムを検知しているこのデバイスは個人の毎日の体調も反映している
 ・アラーム発報はWBGT 値とその場所に滞在する作業時間とも相関がある
 ・発報を繰り返す人もおり別の作業へのローテーションを行うことにより改善される
 ・複数名の発報職場や作業では作業環境や作業方法を改善する指針とも捉えられる

 このように熱中症を発症させる色々な状況等を具体的に理解することができるので有効な対策を打ちやすい利点もあり「熱中症対策ウォッチ」は熱中症を発症する前の初期症状を事前に把握可能なツールと判断しました。ただし、「熱中症対策ウォッチ」が全てではなくやはり個々人の毎日の体調管理やこまめな水分補給などが大前提であることは言うまでもありません。

 以上、長年苦労しながら当社が取り組んできた熱中症対策について述べてきましたが、今年の5 月は熱中症で病院に搬送された人が全国で既に3600 人余りと5 月としては統計を取り始めた2015 年以降で2 番目に多い年とのことです。熱中症は最悪死にもつながる重篤な災害です。今年も罹災者ゼロを目指して取り組んでいきたいと思います。
皆さんに参考となる情報が一つでもあったなら幸いです。

 注)ウェアラブルデバイスは防爆構造でないものもあり危険物を取扱う場所での利用は所轄消防署への相談が必要です。
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