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役員寄稿
  「会社生活終盤で思うこと」 (第135会報)
東芝マテリアル株式会社
取締役 福田 悦幸

 会社生活を振り返り、入社数年の体験がその後の土台なっていることと、会社生活終盤で取り組んでいることについて、書きたいと思います。

1)会社生活の創成期に与えられた機会に感謝!

 材料部品メーカでエンジニアとして30 有余年、会社生活も終盤を迎える今、ふと思うことがある。優等生とは遠かった自分が様々なことがある中で、多くの方々に助けられ、よく生き延びて来たと。もしやどなたかの自信に繋がるかもしれぬ、と。

 私の学生時代は理論物理の研究室に属していたが、正直なところ勉強や実験に対しては勤勉ではなく、英語研究会というサークルでディベートに没頭していた。それでも所謂バブル世代という恩恵もあってか、望んだエンジニアとして会社生活をスタートすることができた。

 ただ自分の無知は自覚していたので、目の前の事を一生懸命するしかないと、がむしゃらに仕事をした。そんな中で3 年程経った頃、転機がやってきた。名古屋のある財団法人の研究所へ出向することになり、そこで国プロなどを通して、2 年間、他社の同世代エンジニアと、公私に渡り、切磋琢磨させてもらった。入社後5 年程という、会社生活としては最初の短い期間であったが、今考えると、出来の悪い若手のことを思い、上長がチャンスを与えてくれ、この時の経験が、エンジニアとしての大きな土台になっている。当時の上長と、出会った師と友に今も感謝している。

2)会社生活終盤は、経験の伝承がキーワード!

 50 歳の頃にある研修を受け、定年までに自分に何ができるだろうかと考えるうち、月並みではあるがベテランから若手への経験、知識の継承を意識するようになった。今現在30 代及び40 代のエンジニアが不足している状況でこの伝承プロセスが進まないことは、経営の視点から見ても実に悩ましい課題なのである。若い頃の自分もそうであったが、経験していないことを知識として教わっても、理解したつもりが本当の意味では理解されていないことは多々ある。この課題に対して迷走しながら2 年ほど考えるうち、私なりに現在2 つのことを意識して、具体的な手法を模索している。

 1 つ目は、IT 技術である。IT 技術を業務の効率化という視点だけでなく、技術伝承手段としても捉えても良いのではないか。スタートは、現状をデジタル化し、データベースを構築することであるが、技術伝承では、ベテランだけが知っている経験・ノウハウの数値化と、製造ラインから収集されたデータとの融合という視点である。幸い、データ収集する手段は開発が進み、比較的導入しやすくなって来ており、使わない手はない状況である。

 このシステム構築には、IT 技術と一言で表せるが、インフラ系、Web 系、データサイエンス系など多岐に渡り、それぞれ専門家が必要と言われている。厄介なことに、要求仕様を伝える材料系エンジニアは、IT 技術の専門家へうまく伝えることができないことが多く、すれ違いから、お互いストレスを感じることがあるようである。これらを少しでも円滑に進めるためには、そもそも仕様を伝える側が、最終的にどう利用したいかという夢を伝えることと、もう少しIT 技術を理解することが始まりではないかと思う。

 例えば、エクセルで非常に簡単なVBA コードを書いてみることでも良いと思う。自分自身で稚拙なコードを書いてみたが、普段のコミュニケーションが如何に曖昧の中で行われていることが理解できた。この感覚が、IT 技術者とのコミュニケーションを助けることになる。また、技術伝承という意味では、機械学習がどうやって学習してるかを理解するとさらに望ましい。 これは、ベテランの知識・ノウハウをどう数値化することの助けになるからである。難しいことを理解する必要はなく、エッセンスだけでも十分と感じたことがある。

 2 つ目は、若手に多くの経験してもらうことである。今の若手は優秀であるが、少し大人しく、もう少し元気な方が頼もしいと思うことがある。「私は、失敗の数は、社内でもトップクラス」とつぶやきながら、「小さな失敗を沢山経験した方が良いよ」とメッセージを発信している。理由は、失敗することで、考えるからである。実験は成功を願って計画するが、多くの場合、想定通りにならないことの方が多い。「失敗するとしたら、なぜ失敗するのかを事前に考えるように」ともつぶやいている。そうすることで、違う視点で、客観的に考察できるようになると信じているからである。

3)最後に

 以下の英文は、確か、ラジオ講座のやさしいビジネス英語を聴講していた時に、作者不明で、名言として紹介されていた。
 Does he have 17 years of experience or one year ofexperience 17 times?
(彼は、17 年の経験を持っているのか?それとも1年の経験を17 回持っているのか?)

 この言葉に出会った当時、学生時代に勉強しなかったことを後悔していた時で、衝撃を受け、今でも覚えている。もう17 年どころか30 年以上となり、現状維持も難しい老兵は、すぐ忘れてしまうが、新しい知識・技術を取り入れようと努力している姿を見せることで、若手の刺激になればと思っている。会社生活終盤であまり時間は残されていないが、データサイエンスを用いて、もうひと花咲かせたいと夢を見ている。
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