
東芝マテリアル株式会社
青山 斉
1 緒 言
HIDランプの特性を長時間に渡り維持するためには、タングステン電極の長寿命化は重要である。タングステン電極は、高温で動作させるため、タングステン自体が蒸発し、発光管内壁に付着し黒化を起こす。タングステンの蒸発は、主に電極先端の温度に依存するため、電極先端の動作温度を決定する形状や仕事関数等の電極設計は、ランプ特性を左右することになる。HIDランプの種類によって使用されるタングステン電極の組成は種々あるが、高電流密度、耐変形性を求められる電極には、仕事関数が低く、かつ酸化物で最も高い融点を持つ酸化トリウムを含有したタングステンが用いられている。この酸化トリウムの含有量は、1〜2wt%(以下%と略す)が主流となっている。
近年、HIDランプの開発が進むにつれ、従来から用いられる1〜2%の酸化トリウムを含有した電極では、最適とはいえない場合もある。そこで、従来材よりも酸化トリウムを減量したタングステン電極の要求があり、これらの熱的特性を調査すると同時に、水銀フリーHIDランプなどへの電極の応用を検討した。
2 実験方法
酸化トリウムを0.1%、0.3%、0.5%および1.0%添加したW粉末を出発原料として、成形、焼結後、圧延、転打、伸線および電解研磨によりφ0.39mmの線材に仕上げた。表1に4種類の化学成分分析結果を示す(4種類の組成をTH01、TH03、TH05およびTH10と略す)。得られた線材の焼き鈍し後の引張強さの温度依存性調査のため、水素雰囲気にて通電熱処理後に引張試験を行った。

次に、自動車前照灯として用いられる水銀フリーHIDランプに電極を組み込み、EU120分モードの点滅サイクルで点灯させた時の色度x変化量、電圧などの寿命特性を評価した。色度変化が大きい場合、ランプの初期の発光色が変化する。ランプ電圧の上昇は、不点灯の原因となるため好ましくない。
3 実験結果および考察
図1に焼き鈍し後の引張強さを示す。引張強さの温度依存性は、酸化トリウムの含有量により影響を受け、特に従来材のTH10に対し、TH01、TH03は1900℃近傍の引張強さの低下が著しい。タングステン電極は、ランプに組み込まれる際に脱ガス処理、表面清浄化を目的として、真空熱処理が行われるが、TH01材、TH03材は、1900℃近傍で真空処理を行う場合は、強度的に低下してしまうため、ランプ組み立て工程では、必要以上に負荷がかからないように注意が必要であることがわかった。

次に、水銀フリーHIDランプの色度x変化量、電圧の点灯時間推移を図2、3に示す。色度X変化量は、酸化トリウムの含有量が多いほど、色度変化しやすく、初期点灯発光色よりも青色方向に変化していくことが判明した。ランプ電圧の点灯時間推移も、酸化トリウムの含有量が多くなるに従い、電圧が高くなった。以上のことから、色度変化およびランプ電圧の上昇を抑えるには、酸化トリウムの含有量を減らすことが有効である。これは、点灯中に、電極から酸化トリウムが蒸発し、発光管内に封入されている薬品と反応するために起こっている現象と考えられ、酸化トリウムの含有量を低減することが水銀フリーHIDランプには適していることがわかった。