
アドバンスト マテリアル ジャパン株式会社
取締役社長
中村 繁夫
新しい民主党政権が生まれた。日本の戦後政治の変革と言う意味で大変、素晴らしい事である。わずか1ヶ月の間にいろいろな出来事があった。特に国連の演説では鳩山由紀夫首相が世界に注目される事となった。
「日本が架け橋となって挑むべき五つの挑戦」として、(1)世界的な経済危機への対処(2)気候変動問題への取り組み(3)核軍縮・不拡散(4)平和構築・開発・貧困への対処(5)東アジア共同体の構築――を打ち出した。
この演説を聴いていてふと老子の思想を思い出した。鳩山演説には柔軟にして控えめでしかも秘められたパワーを感じたからである。友愛外交という柔軟的姿勢や経済危機への貢献と東アジア共同体構築における控えめな発言、そして環境問題、核軍縮における力強い発言から「上善は水の如し」という言葉を思い出したのである。五つの挑戦を一つ一つ見てみると以下の通りである。
(1)世界的な経済危機への対処:経済危機対応では「新しい日本はグローバリゼーションに適切に対処する必要がある」と言及し「光の部分を伸ばし、影の部分を制御する」と訴えた。要するに日本の強みは柔軟に生かして弱みや悪い影響は出来る限り控えめに対処するという事だ。老子の言葉を借りると正に「上善は水の如し」で行きましょうという風に聞こえた。水と言うものは柔軟で控えめでしかも岩をも貫くパワーを持っているからである。
(2)気候変動問題への取り組み:温暖化対策では、「90年比25%」という温室効果ガス削減の中期目標について、「将来世代のため地球を守りたいと願い、野心的な誓約を提示した」と説明。このコミットメントは力強いが少し行き過ぎの嫌いがある。老子の言葉を借りると「知者不言。言者不知」である。知る者は言わず。言う者は知らず。つまりよく分かっていれば多くは語るべきでは無い。ぺらぺらと喋りすぎる人は実はよく分かっていない。という事にならないか実に心配である。知恵のある者は言葉が少なく、言葉の多いものは知恵が少ないからである。しかし政治の世界では仕方がないかとも思う。
(3)核軍縮・不拡散:核軍縮、不拡散では北朝鮮問題に時間を割き、「日朝平壌宣言にのっとり、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を誠意をもって清算し国交正常化を図る」と述べた。老子の言葉に「兵者不祥之器,非君子之器」とある。兵は不祥の器(き)にして、君子の器(き)に非ず。軍備は不吉な装備であり、志高い人間の用いるものではないという意味で日本が自信を持って世界に布告した感銘を受ける一節であった。
(4)平和構築・開発・貧困への対処:平和構築ではアフガニスタン復興支援に関連し、「職業訓練などの社会復帰支援の検討」をうたい、パキスタンへの支援も表明した。この演説を聴きながら思ったのは「治大國若烹小鮮」と「柔弱勝剛強」である。国を治めるときに小魚は注意深く煮るぐらいが良い。つまり「必要以上にかき回さないほうが良い」と言った意味である。また柔弱は剛強に勝つ(柔良く剛を制す)と言うが日本は無理をせずソフトパワーで対処すべきだ。外国からは「兵も出せ金も出せ」と言われても無理せず「跂者不立」つま先立っても長続きしないから自然体で行くべきである。
(5)東アジア共同体の構築―東アジア共同体については「日本は過去の誤った行動に起因する歴史的事情もあり、この地域で積極的な役割を果たすことに躊躇(ちゅうちょ)があった」と指摘し「新しい日本は、歴史を乗り越えてアジアの国々の架け橋になることを望む」と表明した。このフレーズには「国家昏乱有忠臣」を思い出した。つまり、国家の混乱する時代には必ず忠臣が現れるものだ。鳩山由紀夫の友愛精神にその匂いを嗅ぐのは私だけではないはずだ。しかしその裏には争いごとがなければ忠臣も必要がなくその方が幸せに決まっている事が含まれているのは言うまでもない。民主党政権は何故かしらこの忠臣が現れたようなイメージが強い。単なるアンチテーゼとして民主党政権の役割が終了することがこの政権の使命だと言われないように気をつけてもらいたい。
老子の思想は「自然であることが、万物の根源である「道」に通じると言っている。「人を知る者は智、自ら知る者は明なり。人に勝つ者は力あり、自ら勝つ者は強し。足るを知る者は富む。」つまり他人を知るのも大事だが、自分を知るということはもっと大事だという事である。『無為自然』とは作為がなく、宇宙のあり方に従い、自然のままであるという意味である。「老子」は「道」を体得した聖人は「無為」に対処すると説いた。天地でさえ不自然を長続きさせることはできない。まして人の行いや政(まつりごと)には限度がある。
また「知足不辱。知止不殆」とも言う。足ることを知れば辱(はずかし)められず、止(とど)まることを知れば殆(あや)うからず。これで十分ということを心得ないで、欲が深すぎると、みずからの存在や品格を失うことになる。
民主党政権が進取の気を大切にしかも無理をせず「千里之行始於足下」つまり千里の行(こう)は、足下より始まる。まさに「千里の道も一歩から」の精神で着実な新しい政治が持続するように祈念するばかりである。